皆さん、おはようございます。
今日は、今年のノーベル化学賞を受賞した、 硤合憲三(そあいけんぞう)さんの研究についてお話ししたいと思います。
皆さんは、化学と聞くと、どのようなことを思い浮かべますか。実験や薬品、難しい化学式などを思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、今回の研究は、私たちが生きていることそのものに関わる、とても興味深いものです。
まず、皆さん、自分の右手と左手を見てください。右手と左手は、よく似ていますね。指の数も同じです。しかし、鏡に映したような関係にあり、完全に重ね合わせることはできません。
実は、化学の世界にも、この右手と左手のような関係にある分子が存在します。そして、こうした分子のわずかな違いが、生命の働きにとって大きな意味を持つことがあります。例えば、私たちの体をつくるタンパク質に関わるアミノ酸は、基本的に左手型が使われています。
では、ここで一つ、皆さんに考えてほしいことがあります。なぜ、地球上の生命は、右手型ではなく、左手型を使うようになったのでしょうか。実は、これは科学者たちが長い間考え続けてきた謎の一つです。硤合さんたちの研究は、この謎を解き明かす手がかりとなるものです。
研究の鍵となるのは、「自己触媒」という仕組みです。少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、ある反応によってできた物質が、さらに同じ種類の物質をつくる反応を助けるということです。
最初に、右手型と左手型の分子がほぼ同じ割合であったとしても、何かのきっかけで、片方がほんのわずかに多くなることがあります。その小さな偏りが、反応を繰り返すことで大きくなっていく場合があるのです。つまり、最初はほんの小さな違いでも、積み重なることで、大きな変化につながることがあるのです。
この研究は、生命がどのように誕生したのかという謎を解く手がかりになるだけでなく、医薬品の開発にも関わる重要な研究です。一つの小さな現象を深く追究することが、生命の謎を解くことや、人々の健康を支えることにつながっているのです。
では、私たちは、この研究から何を学ぶことができるでしょうか。私は、二つのことが大切だと思います。
一つ目は、「なぜだろう」と思う気持ちを大切にすることです。
学校では、教科書に書かれた答えを学ぶことがたくさんあります。しかし、世界には、まだ答えが見つかっていない問いが数多くあります。なぜそうなるのだろう。別の考え方はできないだろうか。そうした疑問を持ち、自分で考え、調べ、確かめていくことが、新しい発見につながります。
探究とは、特別な研究者だけがするものではありません。皆さんが日々の授業や生活の中で感じる、小さな疑問から始まるのです。
二つ目は、自分の可能性を、最初から決めつけないことです。勉強でも、部活動でも、学校行事でも、努力しているのに、なかなか結果が出ないことがあるでしょう。周りの人と比べて、自分には才能がないのではないかと思うこともあるかもしれません。しかし、今はまだ小さく見える興味や関心が、これからの学びや経験によって、大きく育っていくことがあります。
英語を学ぶ中で世界の人々とつながることに興味を持つ人もいるでしょう。探究活動を通して、社会の課題を解決したいと思う人もいるでしょう。部活動で仲間と協力する中で、自分の新たな力に気づく人もいるでしょう。
大切なのは、他の人と同じであることではありません。自分は何が好きなのか、何をもっと知りたいのか、何に挑戦してみたいのか。その気持ちを大切にすることです。
国本女子は、皆さん一人ひとりの才能を最大限に引き出す学校でありたいと考えています。皆さんの中にある、今はまだ小さな「好き」「知りたい」「やってみたい」という気持ち。それが、将来、思いがけない可能性につながるかもしれません。
硤合さんの研究が教えてくれるように、小さな違いが大きな変化を生み出すことがあります。どうか、自分の可能性を自分で狭めないでください。そして、目の前にある小さな疑問を大切にし、自分なりの問いを持ち続けてください。その問いの先に、皆さん自身の新しい発見が待っているかもしれません。
今日も一日、自分なりの発見を大切に過ごしてください。
さて、最後になりましたが、10月は、いよいよ記念祭の季節です。今年のテーマは「青春(あおはる)」。一人ひとりの感性を輝かせ、仲間と力を合わせながら、かけがえのない青春の一ページを刻んでください。
国本女子中学校・高等学校長 豊田ひろ子

