梅の香りに心和む麗らかな日に、国本女子高等学校をご卒業なさられる皆様、ご家族の皆様、心よりお祝いを申し上げます。
卒業生の皆様は、コロナ禍の中、多くの制限を受けながらも高校生活を全うされました。そして、思い描く将来への道を見事に切り拓き、新たな門出を迎えておられます。この3年間、いろいろと大変な中、よく耐えました。よく乗り越えました。本当にお疲れ様でした。立派に、しなやかで逞しい女性に成長してくださった皆様を、私は誇りに思います。ご卒業後も、「幸せな人生」を送ってくださいますことを、私は願わずにはいられません。
ところで、皆様にとって「幸せな人生」とはどんなものでしょうか。お金持ちになることでしょうか。有名人になることでしょうか。アメリカのハーバード大学の研究チームが「幸せになるために一番大事なこと」を明らかにするために行った調査によると、それは違うようです。ハーバード大学のエリートと、ボストンの貧困層の子どもたちを対象に、彼らの人生を、75年に渡って追いかけ、多面的にモニタリングしたところ、たどり着いた答えは、「幸せは富や名声ではなく、良好な人間関係」だということでした。つまり、「人との繋がり、社会との繋がりが、人を幸せにし健康にしてくれる」という結論でした。そして、それは質が重要であることもわかりました。ですから、皆様、「友情や絆」を大事にしてください。国本女子で、コロナ禍を互いに支え合ったお仲間との友情や先生方との絆も、一生の宝物となる可能性があります。
さて、皆様に「幸せな人生」を歩んでいただくために、もうひとつお願いしておきたいことは、「直観」というものを大切にして欲しいということです。
染織家で人間国宝の志村ふくみ先生によると、「直観」とは次のようなものです。
「直観とは、自然の諸現象をただ漠然と眺めることではなく、注意深く見つめることであり、注意深く見つめれば、自然はおのずから、その秘密を打ち明けてくれる。それは秘密などというものではなく、自分が何かに心を奪われ、見落としている現象である。その時、心のふるいの目が粗くて、重要なものを落としてしまっているが、ふと気が付いて、熟視し、思いを凝らすとき、急速にふるいの目が密になる。」
人は、日々の慌ただしさに追われ、表面的なものだけを見て物事を判断しがちです。また、野の花に付いた小さな露のきらめきに気づくことなく、通り過ぎてしまうこともあります。目に映っていながら、気づかない、あるいは見逃してしまうことがないように、じっと目を凝らす必要があります。
卒業生の皆様を対象に、特別講座「いのちのスープ」と「草木染め」を行った際、事後の感想レポートを読ませていただきました。学んで欲しいと思っていたことが、きちんと学ばれていることがわかり、私はとても感動しました。そしてそれは、皆様の「直観」が優れているからだと、私は思いました。
「草木染め」から感想をひとつ紹介します。「最初に草木染をやると聞いたときは、うまく染められずに終わってしまうのではないかとても不安になりました。でも実際にやってみると、きれいな色に染まったので良かったです。最初は茶色っぽい色だったものがやっていくうちにだんだんと桜色が濃くなって最終的には透明感のある美しくてかわいい色に変化したことがとても感動したし、面白かったです。今日染めた色はもう染められない色かもしれないと思うととても貴重なものだと感じます。普段何気なくみている桜やその他の植物、風や水など、すべてのものに感謝して生活していきたいと思えた時間でした。とても楽しかったです。」
「いのちのスープ」からもひとつ感想を紹介します。「調味料を使わないので、味がうすくなってしまうのかと思いましたが、野菜に含まれている水分で、野菜をいためて煮込んだことで、野菜本来のおいしさが引き出されたスープになりました。すべて野菜が本来持っている水分を出すために、火の調整をする必要がありますが、弱すぎても水分が出てこないからダメ、強すぎると焦げがまっているからダメ、気になるからふたを開けてちょくちょく確認するとやっと溜まって来た水分が逃げて冷めるからダメ、となかなか難しい条件のもとで成功させるのは大変でしたが、すべてやった上で作ったスープは苦みもなく、野菜の甘味やうまみで作られていてとても美味しかったです。命のはじめも終わりも、飲み物、病気などで弱った時も飲み物が必須なので、今度機会があればスープを作りたいです。今回学べて良かったです。」
その他の感想にも、素直で細やかな観察と、体験を踏まえて、自然や身近な人々への感謝が綴られていて、私は素晴らしいと思いました。このような「直観」は、皆様の生きる力の一助となり豊かな幸せをもたらしてくれると思いますので、大事にしてくださればと思います。
これから皆様は、それぞれ夢を追い求め、様々な領域で活躍されることと思います。どこにいても国本精神で、世を明るく照らしてくださり、ご自身も幸せでいてくださることを願っています。
そして、皆様がどの道を歩まれても、国本女子はいつも皆様の心の近くにあることを願っています。ご卒業後も、お便りや、来校で、ぜひ私たちと繋がってください。同窓生として皆様と再会できることを楽しみにしています。
最後になりましたが、私ども国本女子に大事なお嬢様を託してくださいました保護者様方、ご理解とご信頼に深く感謝いたします。多々至らぬ点がございましたことお詫びいたします。私共でもお役に立てることがございましたら、いつでもお声がけください。今後とも国本女子をどうぞよろしくお願いいたします。
改めまして、皆様、ご卒業おめでとうございます。皆様のご多幸とご活躍をお祈り申し上げます。
令和六年三月二日 国本女子高等学校長 豊田ひろ子