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KUNIMOTO GIRLS’ JUNIOR & SENIOR HIGH SCHOOL

6月1日朝礼:校長講話 入試とジェンダー ― 差別を隠蔽する論点のすり替え

2022.06.01

校長ブログ

学校長  坂東 修三

全校生の皆さん、おはようございます。新年度3回目の朝礼講話の時間です。

今日から6月に入ります。中間試験も終わり、1学期も後半に入ったところです。高3生の皆さんも部活動と受験勉強の両立に余念のない毎日を送っていることと思います。明日は、高3全員が模試を受け、明後日は全校生が英検を受けることになっています。そこで今朝は、入学試験についてお話ししようと思います。話題としては2つ用意していますので、しばしお付き合いください。

《成績ではなくジェンダーで合否が決まるって、アリですか?》

最初のテーマは都立高校の入試に関するものです。都立高校は、2003年に学区制がなくなり、どの都立高校でも受験できるようになりました。ところが、入試は、募集人数を男女に分けて実施するやり方が70年以上にわたって行われてきました。実は、47都道府県で、募集を男女に分けて行っているのは東京都だけです。

入試を男女別定員制度で行った場合の問題点は何かというと、同じ都立高なのに、合格ラインが男子と女子で異なってしまうことです。そして、実際には、女子の合格点が男子よりも高いことが報告されています。つまり、1つの都立高校の中で、同じ点数なのに、男子は合格できても、女子は不合格になるケースが、長年にわたって続いてきたのです。ちなみに、昨年度の都立校入試のデータによれば、普通科110校の都立校で、男子より点数が高いのにもかかわらず、不合格になった女子の受験生が合計で1500名ほどいたという衝撃的な事実が判明しています。

どうしてこんな不合理がまかり通っているのでしょうか。東京都教育委員会の説明によれば、1つは、男女の生徒数が入学前に確定できるので、クラス編成などの学校の運営計画が立てやすいからだそうです。都立高は施設面では、すべて共学用に出来ているのに、「運営計画が立てやすい」という説明はよくわかりません。今の時代、クラスの男女数を揃える必要はないと思いますが。

2つめの説明は、公けには開示されていませんが、どうみても最大の理由に思えます。都立高の男女別募集を男女合同募集に切り換えて、入試合格ラインを一本化すれば、不合格になる男子が大量に出てきて、受け皿になる男子校の数が足りないために、男子の行き場がなくなる事態が起きるというのです。逆に、今まで女子の受け皿になっていた女子校は、都立校に女子を吸収されて定員割れすることになり、経営が立ち行かなくところが出てくるというのです。都内の私立校は、もともと女子校の数が多すぎて、少子化の影響も加わって、定員割れを起こしている女子校が少なからず存在しているのが実態です。

() 都内私立校233 ― 男子校32[14]、女子校80[33]、共学校121[4] [  ]内は高校募集なし

しかし、仮にそうだからといって、同じ点数なのに、男子女子を理由として女子だけが不合格扱いされていいはずがありません。試験は、本来、個人に対する評価ですから、そこに《男子//女子》という別の基準が加わるのは、二重の基準つまりダブルスタンダードを設けることになり、不公正不公平な結果を招くことになります。都教委の説明は、《論点のすり替え》ではないでしょうか。一歩譲って、都教委の心配するような事態が想定されるとしても、私立の女子校の共学化を後押しするような行政上の措置を講じれば、問題は解決の方向に進むはずです。実際、私立女子校の中には、都立高入試における合格ラインの一本化を予想して、共学校に変わるところが増えているのです。遅まきながら、都立校でも、男女別の募集から男女合同募集に切り換え、合格基準を一本化する動きが少しずつですが、出てきています。私たち国本女子にとっても、決して他人事(ひとごと)ではない最近の入試動向です。皆さんも、報道されるニュースに注目するようにしてください。

《女子受験生は一律減点されるって、アリですか?》

次は、医学部入試における女子差別の問題です。先日、医学部入試で性別を理由に不合格扱いされた女性たちの集団訴訟の判決が出されたニュースを覚えていると思います。裁判では、性差別を禁じた憲法14条や、教育の機会均等を定めた教育基本法第3条に違反するとの原告側の訴えが認められ、慰謝料の支払いを大学側に命じる判決が下されました。

医学部入試における男女差別は、2018年に東京医科大学の入試で、文部官僚の子弟の裏口入学が発覚したことを契機に、国公立私立を問わず、全国の大学の医学部で幅広く行われていた事実が一挙に明るみに出されました。例えば、多くの医学部で行われていた不正な採点処理の方法は、女子の受験生の得点から減点するというやり方で、一部の大学では、一律20%の減点が行われたたりしていたのです。これを実際の入試の得点に換算してみてください。500点満点で、ある女子受験生が400点をゲットしたとしても、合否を決める段階では320点として処理されていたことになります。実に卑劣極まる不公正不公平な合否基準です。さらには、別の大学では、女子の受験生は、二次試験の小論文や面接試験の評価がほとんど加味されず、実質、減点扱いされて処理されたりしていました。

どうして、こうした不正が蔓延っていたのでしょうか。

一連の報道や裁判で明らかになった理由として代表的なものは、「医療の現場での労働は、長時間で重労働だから、女性には務まらない」とか、「女性は、家事・育児で仕事を離れる時期があるから医療現場では安定した労働力として当てにならない」などが主張されたりしました。しかし、こうした説明も、先ほどの都立高での男女別の募集における合否基準のダブルスタンダードを正当化する議論同様、《論点のすり替え》と言えます。

そもそも、「医療現場での労働が長時間で重労働である」ならば、そうした労働環境を改善することが、最優先の課題として取り組まれるべきではないでしょうか。そうした課題は、《男性//女性》というジェンダーには関係なく、改善されるべきです。そうすることによって、女性だけでなく、男性にとっても働きやすい労働環境が生まれることになるはずです。

 また、「家事・育児」の問題も日本社会では、根深い問題です。今でも家事・育児は女性の役割という《性別分業》の考え方が根強く残っています。《男は仕事//女は家事・育児》という旧い労働モデルが、医師の間でも依然として蔓延っている事実が資料(1)からもわかります。

《資料1》 男性医師と女性医師で家事に割く時間の違い

上記の《資料1からは、男性医師が、長時間労働や重労働に従事し、専念することができるのは、家事・育児を女性医師がほぼすべて引き受けているからに他ならないことも見えてきます。男性医師が、家事・育児を積極的に分担するようになれば、女性医師が長期間にわたって医療現場から離れるような事態も、当然、回避できることになります。

本来的には、劣悪で過酷な医療現場の労働環境を改善するという抜本的な取り組みを怠って、怠慢のしわ寄せを女性医師に押し付けるというのは、繰り返しますが、《論点のすり替え》に他なりません。こうした《問題や論点のすり替え》は、医療現場のように、24時間の業務態勢が求められる、労働環境が厳しい職場では起こりがちな対応です。

 結局、男性医師は増やしたいが、女性医師を増やしたくないという医療現場の場当たり的な対応が、医学部入試においても、その《付け》を女子受験生に払わせるという無責任で卑劣な扱いを招いているのです。

 次の《資料2に注目してください。これは、不正が発覚した2018年をボーダーにして、それ以前と以後における全国のすべての医学部入試における男女別の合格率の変化を表したものです。不正発覚後には、国民の批判を受けて、入試における合否の決定に関して、文科省の調査が入りました。その結果、すべての大学で差別的採点を廃止したことが報告されています。差別が廃止するにつれて、女子の合格率は上昇し、ついに2021年入試では男子の合格率を凌駕するようになりました。差別がなくなれば、学力的には、女子の方が優っていることを証明するデータです。

《資料2》

次の《資料3の《医師国家試験の男女別合格率の推移》からも、女子の方が学力的にも優っていることがわかります。どうして、優秀な女子を有為な人材として積極的に取り込み、

医療に貢献する医師に育てようとしなかったのでしょうか。仮に、医師には学力以外にも他の能力が必要だというのなら、そうした能力の有無をチェックできる入学試験を工夫して考案すれば済む問題です。あるいは、医学部の6年間やその後の2年間の研修期間でそうした能力を養成するシステムを構築すればいいのです。

            《資料3》 医師国家試験の男女別合格率の推移

今朝は、都立高校と医学部の2つの入学試験制度の問題点に注目してみました。両方に共通する《女子の差別》にも、共通した原因があることも分かって頂けたと思います。問題の解決を棚上げにしたり、先送りしたりして、その《しわ寄せ》を女子に押し付ける無責任な姿勢が見えてきたと思います。国本女子の皆さんにも、大いに関係するテーマですので、引き続き、日々の生活や授業の中で、女子への差別に対する問題意識を深めたり、興味・関心を高めたりするようにしてください。以上で、朝礼講話を終わります。(以上) (3733字)

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